ベトナムの契約書にサイン・社印・割印は必要?|現地実務の基本ルール

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ベトナムの「サイン(署名)」と「会社印(社印)」の扱いは、日本と似ている部分もありますが、慣れないうちは混乱しやすいところです。 結論から言うと、個人はサイン中心、法人はサイン+社印の運用がいまも一般的です。ただし、2021年施行の改正企業法(No.59/2020/QH14)によって制度面にも変化が起きており、実務の前提が少しずつ変わってきています。


個人のサインはどう扱われる?

ベトナムでは、日常の手続きで日本の「認印」のような文化は強くありません。個人としての同意・本人確認は、基本的にサイン(署名)だけで完結します。

銀行口座の開設、携帯電話の契約、不動産の賃貸借契約など、いずれもサインが中心です。日本のように「印鑑を持っていないと手続きできない」という場面はほぼありません。


法人取引でのサイン・社印の扱い

サインだけでは不安がられる理由

法人間取引では、いまも実務上はサインだけだと不安がられる場面があり、会社印を求められることがあります。 そして多くの会社で使われている会社印は、日本の実印のような木製・象牙製のものではなく、スタンプ式(ゴム印に近いタイプ) であることも珍しくありません。

日本だと「ゴム印=正式な印鑑ではない」という感覚がありますが、ベトナムではそれが普通に運用されています。ここは最初に驚くポイントのひとつです。

契約書に社印は法的に必須か?

制度面を押さえておくと、ベトナムでは契約の有効性が常に「社印の有無」で決まるわけではありません。

2021年1月施行の改正企業法(No.59/2020/QH14)では、社印の印影を経営登記機関に届け出る義務が廃止されました。旧法下では、届け出た印影が国家企業登記ポータル上に公開され、取引相手が社印の真偽を確認できる仕組みがありましたが、現在はその仕組みがなくなっています。また、同改正で電子印(デジタル署名)の使用も明文化されました(改正法43条1項)。

つまり、法律上は「社印がなければ契約が無効」というルールにはなっていません。

一方で実務では、相手の社内ルール、監査対応、銀行・役所絡みの手続きの都合で、社印を求められる場面が依然として多くあります。特に注意すべきなのは、社印の登録義務がなくなったことで、相手方の印影の真偽を簡単に確認できなくなった点です。重要な契約では、署名者が法定代表者であるかの確認や、委任状の取得をあわせて行うことが推奨されています。

このため、現場の感覚としては次のように整理すると安全です。

交渉・契約締結の段階では、サイン+社印の”セット”を求められやすい傾向があります。**運用段階(請求、検収、社内回覧)でも、社印があると社内決裁や手続きの通りが早いことが多いです。そして特定の書類(税務申告、銀行関連など)**では、押印が前提になっているケースがあります。

割印(ページのつなぎ)の実務

公式文書や複数ページの契約書では、日本と同様に割印(綴じ目の押印) が使われます。「全ページにサイン必須」という運用は、少なくとも一般的ではありません。

割印については「片方の会社だけで足りる」という説明を見かけることもありますが、実務では双方が割印する運用のほうが安心で、後日のトラブルも減ります。特に、改正企業法で社印の照合手段がなくなった現在は、この「双方割印」の重要性がむしろ増していると言えます。


署名と氏名記入の違い

慣れないうちに特に混乱するのがこのポイントです。

ベトナムの書類では、「サイン(署名)」と「氏名の記入」が別物として扱われることがあります。サイン(ký)は本人確認のための”証明”であり、氏名の記入(họ tên)は誰が署名したのかを読み取るための”記名”です。

たとえば労働契約書の最終ページでは、署名欄(Ký tên)のすぐ下に「氏名を活字体で記入する欄(Họ và tên)」が別途用意されていることがあります。サイン欄に漢字のフルネームを丁寧に書いてしまうと「サインではなく記名だ」と見なされる可能性もあるので、両者の区別を意識しておくと安心です。


サインの設計で気をつけること

代表者になると、日々サインする回数が一気に増えます。おすすめは以下の3つの条件を満たすサインです。

他人が真似しづらいこと。漢字のフルネームをそのまま書くだけだと、手書きに慣れた人に再現されやすくなります。次に、自分が速く書けること。毎回の署名を負担にしないためです。そして毎回の形が安定すること。ブレが大きいと照合の際に面倒が生じることがあります。

ベトナムでは、漢字を読めない人にとって日本語の氏名は十分に「サインっぽく」見えることがあります。だからこそ、仕事で使うサインは、最初に意図して設計しておくと後が楽です。崩し字やイニシャルの組み合わせなど、自分なりのパターンを決めてしまうことをおすすめします。


まとめ:迷ったら「サイン+社印+割印」で事故を防ぐ

制度上の正しさと、現場での通りやすさは別の話です。2021年の改正企業法で社印の届出義務や印影のポータル公開が廃止され、制度的には「社印の重要性が下がった」とも言えます。しかし実務では、相手の社内手続きや監査、金融機関対応まで含めて考えると、当面は**「サイン+社印(必要なら割印)」のセット**が最も無難です。

あわせて、改正法下では相手方の署名権限の確認がより重要になっています。重要な契約の際には、法定代表者の確認と委任状の取得も忘れずに行いましょう。

ベトナムでの法人運営や現地スタッフとのやり取りについては、「ベトナム人社員との仕事がうまくいくコツと留意点」もあわせて参考にしてください。